2024年から、建設業界における残業時間の規制が大幅に強化されました。
長時間労働が常態化していた建設業にとって、労働時間管理の徹底や業務効率化が急務となり、企業の経営や労働者の働き方にも大きな影響を与えています。
本記事では、建設業の残業規制と業界の残業削減のための取り組みについて、わかりやすく解説します。
建設業における2024年の残業規制とは?
2024年から、「建設業における残業規制が大幅に強化」されました。
これまで、建設業は他業界よりも緩やかな規制を受けていましたが、2024年以降は、他業界と同様の厳しい残業時間の上限が適用されました。
この規制は、建設業における長時間労働を是正し、労働者の健康や働きやすさを向上させることを目的としています。特に、長時間労働が常態化していた建設業では、業務の効率化や労働時間の適正管理が今本格化しています。
残業時間の上限規制の概要
2024年、建設業に特例として認められていた長時間労働の緩和措置が終了し、他業界と同様に「年間の残業時間が最大720時間」に制限されるものです。
この規制の背景には、長時間労働が健康問題や労働生産性の低下を引き起こす懸念があり、労働環境の改善を図るための施策が含まれています。
規制により、建設業の企業は、労働者が過剰な残業を行わないよう厳格な管理を求められます。月の残業時間は、原則45時間以内に抑える必要があり、繁忙期においても月100時間、年間720時間を超えることが許されません。
これにより、企業は従来の働き方の見直しや効率化が必須となり、労働時間管理の精度向上が求められています。
特別条項付き36協定
労働基準法では、1日8時間および1週40時間、毎週少なくとも1日の休日が労働時間の限度として定められています。
これを超える場合は36協定の締結・届け出が必要です。「36協定」とは、労使間で合意があれば、法定労働時間を超えた残業や休日出勤を可能にする制度です。
さらに、繁忙期には特別条項付き36協定を締結することで、通常の上限を超えて一時的に残業時間を増やすことが認められています。2024年の建設業に対する規制強化に伴い、この特別条項が適用される場合でも、残業時間は年間で最大720時間を超えてはならない等の制約が課されました。
私の職場では、この特別条項を活用して残業時間を上限いっぱいに設定しています。
他業界との比較による建設業の特例
建設業はこれまで、他の産業と比べて残業規制において特例措置が取られていました。その理由の一つに、建設業は気候条件や予期せぬ事態による工期の変更が頻繁に発生するため、柔軟な対応が必要とされていたからです。
しかし、2024年以降は、こうした特例も見直され、他業界と同じく厳しい残業時間の上限が適用されます。
業界の特性を考慮した措置でしたが、長期的な労働環境の改善を図るため、最終的には他業界と同様の規制が必要と判断されたのです。
まさに今、残業時間の削減と労働生産性の向上を両立させるための取り組みが、建設業で積極的に行われています。
建設業に残業が多い理由
そもそもなぜ、建設業界は他の業界と比べても、残業が多いのでしょう。
その理由は、主に人材不足や高齢化、工期の厳守、さらに繁忙期やイレギュラーな事態への対応など、業界特有の要因が挙げられます。これらの要因が重なることで、建設業では労働時間が長引き、従業員に大きな負担がかかる状況が続いています。
ここでは、建設業における残業が多くなる理由を具体的に見ていきます。
人材不足と業界の高齢化
建設業における残業が多い最も大きな理由は、人材不足と業界の高齢化です。
近年、若年層の建設業への就業意欲が低下し、労働力の確保が困難になっています。さらに、建設業に従事する労働者の平均年齢は高く、定年退職や健康上の理由で現場を離れるベテランも増加しています。これにより、現場の労働力が不足し、残された労働者に過度な負担がかかる結果となり、残業時間が長くなっています。
人材不足に対処するために、企業は従業員一人あたりの業務量を増やす傾向にあります。しかし、それが長時間労働や過重労働を引き起こし、結果として労働者の離職率が上昇し、さらに人材不足が深刻化するという悪循環が生じています。
この状況を打破するためには、若年層の建設業への関心を高め、労働環境を整える取り組みをアピールしないとさらに深刻化してしますと、私は危惧しています。
工期の厳守が求められる
建設業におけるもう一つの残業が多い理由は、工期の厳守が強く求められるためです。
特に、大型プロジェクトや公共事業などでは、契約上の納期を厳守することが絶対条件とされています。工期の遅延は、企業にとって大きな損失となるだけでなく、発注者との信頼関係にも悪影響を及ぼすため、どうしても期限に間に合わせるために長時間労働が発生してしまうケースが多いのです。
たてえば、天候や予期せぬトラブルによる工事の遅延が頻繁に発生します。これらの要因に対処するために、事前に余裕を持ったスケジュールを組むことが理想ですが、現実的には限られたリソースでの運営が求められることが多く、結果的に残業で対応せざるを得ない状況が続いています。
繁忙期やイレギュラーに対する対応の課題
建設業は、繁忙期やイレギュラーな事態への対応が求められるため、残業が多くなる傾向があります。
特に、繁忙期には複数のプロジェクトが同時進行し、限られた人員で効率的に工事を進めなければならない状況に陥りがちです。建設現場では急な仕様変更など問題が発生することも多く、その対応に追われることがしばしばあります。
例えば、施工不良、供給遅延などが原因で工事の進行が遅れる場合、職人さんの作業が必要なため従業員が残業を強いられることになります。このようなイレギュラーな事態は計画通りに進めることが難しく、短期間で進捗を取り戻すための労働時間が延長される結果となります。
建設業における残業規制の影響
2024年に施行される建設業の残業規制は、企業と労働者の双方に大きな影響を与えることが予想されます。残業時間の上限が厳しく設定されることで、長時間労働が当たり前だった現場にも変革が求められます。
企業には労働時間管理の徹底や新たな対策が必要となり、労働者にとっても労働環境の改善や働き方の変化が起こるでしょう。ここでは、企業と労働者への具体的な影響と、今後の業界の変化について詳しく解説します。
企業への罰則内容
残業規制違反に対する企業への罰則は厳格に運用されます。
労働基準法に基づき、残業時間が法定上限を超えた場合、罰則には6か月以下の懲役または30万円以下の罰金とされており、企業には処分が科される可能性もあります。
内容によっては、労働基準監督署からの是正勧告や、悪質な場合には企業名の公表も行われるため、企業の信用失墜にもつながる恐れがあります。こうした罰則を避けるためにも、企業は早急に労働時間管理の徹底や業務効率化を進める必要があります。
労働者への影響(給料減る、休暇増える)
残業規制の強化は、私たち労働者にとってもさまざまな影響をもたらします。
特に、残業が常態化していた建設業では、残業時間が制限されることで給料が減少する可能性が高いです。多くの労働者が残業手当を生活費の一部として頼りにしているため、収入減少は生活に直結する問題となります。
残業代が少なくなったので、基本給は少し上がりましたが、合計の給料は減ってしましました。
これに対して、企業は基本給の見直しやインセンティブ制度の導入など、新たな賃金体系を模索する必要があるかもしれません。
一方で、残業が減ることで労働者の休暇取得が増えることも期待されます。これまで多忙を理由に取得できなかった有給休暇の消化が進むことで、ワークライフバランスの向上が図られる可能性があります。また、健康面での改善も見込まれ、長時間労働による過労やストレスから解放されることで、労働者の生活の質が向上することが期待されています。
働き方改革による業界変化の予測
抜本的な効率的な働き方が求められるため、BIMやICTなどの最新技術を導入し、業務の効率化を図る企業が増加すると考えられます。無駄な残業を減らすために、従業員や業務を管理する方法が重要視されるようになります。
さらに、労働者の働き方も変わり、テレワークやフレックスタイム制の導入など、柔軟な勤務形態が普及する可能性もあります。こうした変化は、若年層の建設業界への就業意欲を高め、人材確保にもつながるかもしれません。長時間労働から脱却し、働きやすい環境を整えることで、建設業界は今後さらに発展する可能性が期待されます。
残業時間を削減するための対策
建設業界における残業時間削減は、労働者の健康や生活の質を向上させるだけでなく、企業の生産性向上にも直結する重要な課題です。
ここでは、業務効率化や労働環境の改善、工期管理の見直しなど、残業時間削減に向けた具体的な施策について紹介します。
業務効率化の推進(BIM、ICT、AI活用)
業務効率化のために、BIM(Building Information Modeling)やICT(情報通信技術)、AIの活用が建設業界で急速に広がっています。
BIMは建物の設計から施工、維持管理までを一元的に管理する技術で、設計ミスや工事の手戻りを減らし、工期短縮に大きく貢献します。また、ICTを活用したドローンによる現場の測量や進捗管理、AIによる配筋検査や設計支援なども、作業の効率化を促進しています。
これらの技術の導入により、建設現場での無駄な時間を削減し、必要な作業を効率的に進めることが可能となります。結果として、残業時間が減少し、作業者の負担が軽減されるだけでなく、プロジェクト全体のコスト削減にもつながります。
今後、BIMやAI技術のさらなる普及が進めば、建設業界全体の業務効率化が一層進展し、残業削減の大きな原動力となるでしょう。
労働環境の改善(勤怠管理システムの導入)
残業時間を効果的に管理するためには、労働環境の改善が不可欠です。勤怠管理システムの導入は、労働時間を正確に把握し、残業時間の削減に寄与します。
従来のPCのログオン・オフなどによる勤怠管理では、労働時間の記録が曖昧になりやすく、過剰な残業が発生しがちです。もっと精度の高い勤怠管理システムを導入することで、労働時間の自動記録が可能となり、従業員の働きすぎを防止することができます。
さらに、勤怠管理システムは、リアルタイムでの労働時間の可視化や、従業員ごとの勤務状況の分析を容易にし、長時間労働が発生しそうな場合には部署や課で共有することで事前に対応することができます。
工期の見直しと適切なスケジュール管理
残業時間削減において、工期の見直しと適切なスケジュール管理も重要な要素です。建設業では、突発的な事態や天候などの影響で工期が遅延することがしばしばありますが、その都度、残業で対応してきた企業も多いです。
これを防ぐためには、事前のリスク管理を含めた余裕のあるスケジュール設定が必要です。
適切なスケジュール管理を実施するためには、お客様の理解も欠かせません。工期が極端に短かい場合は交渉するなど、工事開始前からスケジュールに多少の余裕を持たせておくことが必要です。
今後の建設業が取り組むべき課題
建設業界では、長時間労働や人材不足が長年の課題とされています。2024年の残業規制強化を契機に、業界全体で働き方改革が求められる中、企業は労働環境の改善に向けて具体的な対策を講じる必要があります。
長時間労働の常態化を防ぐための改革や、週休2日制の導入による労働者の定着率向上、さらには業界のイメージアップによる新たな人材の確保が重要な課題として挙げられます。
長時間労働の常態化を防ぐための改革
建設業界では、長時間労働が常態化している現状があります。特に工期が厳しいプロジェクトや予期しないトラブルの発生時に、労働者は長時間労働を余儀なくされることが多いです。しかし、長時間労働は労働者の健康や生産性に悪影響を与えるだけでなく、離職率の上昇にもつながります。このため、今後の建設業界は長時間労働の常態化を防ぐための抜本的な改革が必要です。
具体的な改革としては、効率的な働き方の推進や業務の標準化、技術の導入が重要です。労働時間の適正管理を徹底し、労働者が適切な休息を取れるような環境を整えることも不可欠です。
さらに、長時間労働に依存しない業務体制を構築することで、労働者の負担を軽減し、結果として業界全体の生産性向上にもつながります。
週休2日制の推進と労働者の定着率向上
週休2日制の推進は、建設業界における労働者の定着率を向上させるための重要な取り組みです。これまで建設業界では、繁忙期や工期の厳守のために休暇が十分に取れない労働者が多く、ワークライフバランスが悪化していました。その結果、労働者の疲弊や離職が進み、さらに人材不足が深刻化するという悪循環が発生していました。
週休2日制を導入することで、労働者がしっかりと休息を取ることができ、精神的・身体的な健康が維持されます。労働者にとって働きやすい環境が整うことで、職場への満足度が向上し、離職率の低下にもつながります。
特に若年層にとっては、休日が多く、働きやすい職場環境は就職先を選ぶ際の大きなポイントとなるため、週休2日制の推進は人材確保にも効果的です。
業界全体のイメージアップによる人材確保
建設業界における人材不足を解消するためには、業界全体のイメージアップが欠かせません。従来、建設業界は「肉体労働が多く、過酷な職場環境」といったマイナスのイメージを持たれることが多く、特に若年層から敬遠される傾向がありました。このようなネガティブなイメージを払拭し、より魅力的な業界として認識されるための取り組みが必要です。
イメージアップのためには、まずは労働環境の改善が重要です。BIMやAIなどの先進技術を取り入れることで、デジタル化された効率的な作業環境を提供し、肉体労働に依存しない業務体制をアピールすることが効果的です。
働き方改革の推進や、週休2日制の導入など、若者にとって魅力的な職場環境を整備することが必要です。
建設業の社会的な役割や意義を強調することで、誇りを持って働ける業界として認知されることが、将来的な人材確保につながると思います。
まとめ
2024年の残業規制強化により、建設業界は長時間労働の是正や労働環境の改善を迫られています。これまで特例措置が認められていた建設業界ですが、他業界と同様に厳格な規制が適用されることで、企業は労働時間管理の徹底や業務効率化の推進を余儀なくされます。残業時間の削減は、罰則を回避するためだけでなく、労働者の健康を守り、業界全体の持続可能な成長につながる重要な取り組みです。
BIMやAIなどの先進技術の導入、勤怠管理システムの活用による労働時間の共有、週休2日制の導入など、働き方改革の実現が急務となっています。これにより、長時間労働が常態化していた現状を見直し、若年層の就業意欲を高め、業界全体のイメージアップを図ることが可能です。
今後の建設業界は、労働環境の改革を進めながら、企業の生産性向上と人材確保を両立させることが重要な課題となります。働きやすい環境づくりを進めることで、建設業界の未来がより明るく持続的なものとなるでしょう。